神戸市長田区はケミカルシューズ生産地として日本屈指のシェアを誇る「履き倒れの街」としての知名度を誇る工業地帯であり、神戸随一のド下町エリアとして独自の食文化を持っている。その象徴的な食い物が「ぼっかけ」と呼ばれる、牛すじ肉とこんにゃくを甘辛く煮詰めて作った料理で、これをうどんやそば、粉物に入れて喰らうのが神戸下町民の定番となっている。
かつて昭和の時代、気の短い工場の職人がせっせと掻き込んで喰らえるようにと「ぼっかけ」の入った焼きそばに自前の弁当箱に入れた冷えた白飯をぶち込んで店員に一緒に焼いてもらい、お好み焼きの「コテ」(標準語ではテコ)で細かくぶつ切りにした”炭水化物オン炭水化物”な料理を「そばめし」と称して食べるようになったのが定着し、これが神戸のソウルフードとして広く認識されている。
その「そばめし」発祥の店とされる「お好み焼青森」を訪れた事がある。場所はやはり新長田駅の近くで、大正筋商店街を東に外れた住宅地の一角、「元祖平壌冷麺屋久保町店」の数軒隣に小さな下町風情のドギツイ店構えで現存している。しかも真向かいは銭湯(萬歳湯)という最強すぎるロケーション。ちなみに「青森」というのは店主の苗字らしく東北の青森県とは無関係である。
「秘密のケンミンSHOW」はじめ幾多ものテレビ番組の取材も受けている有名店なので、客層は地元民半分、観光客半分という案の定な展開になっているが、長田区独特の下町の濃ゆい雰囲気は十二分にある。看板メニューのそばめしもそれほど量的にも多すぎず、観光客がぶらりと立ち寄って食べる分には都合が良い。